マーケティングをわかりにくくしているのは何か

マーケティングを学びはじめたときに、様々な人が全然違うように思われるようなことを言っていて、結局マーケティングとは何なのかがよくわからなくなっていた。ある程度を理解してから気づいたのは、「マーケティング」の意味が人によって違うのが、マーケティングをわかりにくくしている要因だということだ。 そこで、今回はこの点を簡単に解きほぐしてみる。マーケティングを学びはじめる人はぜひ押さえておくとよいだろう。

マーケティング」の意味は、3種類ある

マーケティングが意味することは、3種類ある。ここを押さえておかないと、前提の認識が合わないことで情報収集においても業務上のコミュニケーションにおいても非効率が生じるてしまう。 この3種類とは、

である。それぞれによって視点や示す領域の範囲が異なるので、その点が意識できるとよい。

全体最適としてのマーケティング

これはいわゆる「売れるしくみをつくること」を意味する。プロダクトが顧客に購買されるためには、

  • ユーザーの特性を理解する
  • ユーザーの課題を特定する
  • ユーザーの課題に対して適切な解決策を設計する
  • プロダクトの価値をユーザーに適切に届ける
  • プロダクトのビジネスモデルを設計する
  • これらのオペレーションを着実に遂行する組織を構築する

ことが必要になる。単に販促キャンペーンをすればいい、単に営業を強化すればいいという小さな話ではない。

ROI高く事業を改善していこうとすると、全体を俯瞰したうえでボトルネックがどこにあるのかを考えるのがとても重要である。そしてそれを考えるためのものとして、特定の部門や機能に限定されない全体最適としてのマーケティングがある。

著名なマーケターの森岡毅さんが『マーケティングとは「組織革命」である。』という本を出しているもの、おそらくこういうことなのだろう。(引き合いに出しておきながらこの本はまだ未読ですが…ただ『確率思考の戦略論:USJでも実証された数学マーケティングの力』は名著でした。)

ちなみに、全体最適を念頭においているので、要因を分割した個別論も論点に入ってくる。個別論で見ると、例えばコトラーの考え方とバイロン・シャープの考え方では異なる、みたいな見解の相違が出てくる。

ただそこまで理解しようとすると初学者は困惑してしまうので、はじめはこういった個別の相違まで受け取りすぎず、とにかく全体最適としてどう考えるかを意識できるとよいだろう。

② 販促施策としてのマーケティング

全体最適をの理想像を考えることができるにしても、実務上それを組織横断的に実現するのは難しいことでもある。なぜなら、部門が分割されていることによる限定された情報の非対称性に対応し、普段追いかける普段追いかける指標や実績評価の観点も異なる他部門を巻き込みながら、自身に配分されている権限を越えて取り組みを進めていく必要があるからである。

そこで、全体最適ではなく部分最適のレベルのものとして、販促施策としてのマーケティングがある。

例えば、

など。これは単なる販促施策にすぎないのに「マーケティング」とつけるのがややこしい要因なので、素直に「プロモーション」と呼べばいい。

③ THE MODELの一機能としてのマーケティング

①②とは若干毛色の違うものとして、THE MODELにおけるマーケティングがある。THE MODELとはSalesforceの事例に基づいて定式化された営業プロセスモデルの名称であり、マーケティングインサイドセールス→フィールドセールス→成約→カスタマーサクセスと顧客の購買プロセスに合わせて営業・販売活動を分業化していくというものである。

このとき、マーケティングはリードジェネレーションおよびリードナーチャリングを行い、インサイドセールスに渡すまでの機能を担うことになる。簡単に言うと、顧客がプロダクトを認知するところから購買意欲が高まり商談化できる前までを担当する*1

ある程度②と重複するところはありつつ、リードナーチャリング/購買意欲の醸成までが視野に入ることで、CRM/MAなどについても重要な論点となってくる。そして、何よりこの話をする際には、THE MODELの営業プロセスモデルの存在が前提になっている。

ちなみにTHE MODELはSalesforceをベースにしている以上、米国の商習慣や高単価のBtoBプロダクトであることが隠れた前提になっており、本当はこれをどう日本の商習慣/業界/商材に合わせてカスタマイズするかが重要になるが、その点はまたどこか別で書くかもしれない。

まとめ:「マーケティング」の意味を意識しよう

マーケティングがわかりづらいのは、話者によって「マーケティング」の意味が異なっているからである。このままでは情報収集もコミュニケーションも円滑に行えない。

そこで、個々の場面においてどういう意味かを考えるように注意することと、場合によっては使う言葉をより明確な意味になる別の言葉に言い換えると、もう少しマーケティングが学びやすくなるだろう。

*1:THE MODELの詳細については、福田康隆『THE MODEL:マーケティングインサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』(翔泳社、2019年)が参考になる。