マーケティング推進のための7つの重要な観点

以前の記事(マーケティングをわかりにくくしているのは何か)で、マーケティングがわかりづらいのは、同じ言葉でも大別して下記3種類の意味合いがあり、話者によって言葉の意味が違っているからという整理をした。

今回は、前回のうち①の内容を念頭に置きつつ、②や③を効果的に実践していくにあたっても、マーケティングを推進していくための重要な観点を7つに整理してみた。

この整理の意義は何か

マーケティングとして語られるものが用語の多義性や実践の多様性もあり膨大にあるなか、仮に個々の情報発信の位置づけや内容を理解できたとしても、ではどのように自身の事業に還元できるのかを考えるのは非常に難しい。なぜなら、個別施策が成果を上げるかどうかは、組織内での意思決定プロセスや、市場や商材の特性によって異なるからである。

そこで、個別の議論や事例を目の当たりにしたときに、自身の事業と接続するために立ち返る観点があると、収集した情報をいかに使っていくことができうるかを検討する手助けになると考えている。

マーケティング推進のための7つの重要な観点

マーケティング推進のためには、下記の7つが重要なものだと考える。

  • ①顧客の体験への固執
  • ②顧客の特性の理解
  • ③顧客の課題の理解
  • ④課題に対する解決策の適合性
  • ⑤商材に由来する購買プロセス、商流の特徴理解
  • ⑥購買意欲/購買能力の担保
  • ⑦実現する組織構造、部門間連携、基本概念や専門知のマネジメント

以下、これらについて簡単に取り上げる。

①顧客の体験への固執

第一に重要なのは、顧客の体験を考えるのにとにかくこだわることである。なんとなくそれっぽくまとまっているけれど、実際に顧客のニーズにささらない商材など無数にある。この要因として、検証を欠くことで売り手の妄想に過ぎない企画が立案され、実際に上手くいかなかったら営業や販促プロセスのせいにするような姿勢がある。顧客は売り手の事情などほとんど考慮してくれない。

この話に関連して、プロダクトアウト/マーケットインという整理があるが、これらは事業立ち上げの段階ではどちらでもいいのではないかと思っている。プロダクトアウトから始まった事業でも、創業者の信念が込められたいい事業になったものは多くあって、それらが上手くいっているのはマーケットのニーズに対するセンスだけではなく、きちんと検証を回して事業拡大の際にマーケットニーズを的確につかむよう学習を回せていたからではないかと推測している。

また、SDGsなどの流行もあり、社会的意義を踏まえたブランドも多く立ち上がってきているが、こういったものでも実際のプロダクトが低品質だと意識の高い人が中心の小さなマーケットでとどまってしまう。市場を広げていこうとすると、社会的意義の背景がなくともプロダクトの品質がよく、「買ったら結果的に社会的意義も高いものだった」という形でないと難しいのではないか。

②顧客の特性の理解

次は、顧客の特性を理解することである。これはプロダクトの購買以前の前提として把握が求められる。例えば、Netflix/Prime Videoは動画視聴サービスという観点では直接の競合だが、限られた顧客の可処分時間を取り合うという意味では、TwitterやLINEとも競合している。目的消費で特定のドメイン内の競合のみを考えればいいものと、ドメイン外を例えば娯楽というもう少し広い水準や、可処分時間というさらに広い水準まで広げて考える方がよいものがある。

また、実際に顧客にプロダクトを認知させ購買までさせていく際に、どういう方法がよいかを考える素材にもなる。普段利用しているメディアが何なのか、そのメディアをどう使っているかによって、広告面としての有効性や実施する施策の方式が変わってくる。

③顧客の課題の理解

ある程度顧客のおかれている文脈を踏まえた上で、では顧客はどのような課題を抱えているのかというのが次に重要なことである。このとき、toBtoCでは若干考え方が変わってくる。

顧客への提供価値を考える際に、ペイン(負の体験)の除去とゲイン(正の体験)の付与という整理がある。例えば、書類をいちいち郵送するのが手間でつらいのが電子申請で簡単に済むようにするのはペインの除去だし、映画を見て感動するのはゲインの付与である。

toBでは何らかのプロダクトを購入するのは、事業上の目標の達成に寄与すると考えられるからなので、事業上上手くいっていない課題(ペイン)を解決できるからというのが基本になる。一方、toCでは購買行動をするのは必ずしも目的合理的ではなく、楽しそうだから/好きだからという快楽目的であることもある。

対応しようとしている課題が、ペイン/ゲインのいずれなのか、またそれらが顧客にとってどれほど重要なことなのかを認識しておく必要がある。そうでないと、できたらいいかもしれないが高いお金を払うほどでもないとして事業にならないことがある。

④課題に対する解決策の適合性

顧客の課題を理解したら、そこに対しての解決策を設計していく。このとき、課題をどの程度解決できるのかというのと、不随して発生するデメリットはないか、関連してまとめて解決できるものがないかというのが考えるべきポイントになる。

例えば、用紙をもらって手で記入していた書類が、電子で記入して印刷して郵送提出する形になった場合、用紙をもらう手間の削減と記入の利便性は上がるが郵送の手間は解決していない。またこの場合だと、印刷するための環境が新たに必要になる。

一方、起案→申請→承認→事後処理というのをワークフローの形として抽象化すると、電子申請のシステムを導入することで他の申請業務もまとめて効率化し、申請記録を蓄積することまで合わせて実現できるかもしれない。

⑤商材に由来する購買プロセス、商流の特徴理解

この点はtoBtoCに分けて考えるとわかりやすい。概して、 - toB:高単価で事業目標の実現のために購買されるため、目的適合性と集団的意思決定がなされ、営業担当の顧客組織内の意思決定支援も有効 - toC:低単価で自身の快楽のために購買されることが多く、衝動買いも頻繁に行われる、反復購買も多い

のように大別される。もちろん、例えば不動産や結婚式などはtoCのなかでも高単価、平均購買回数が低く、集団的意思決定がなされるという点でややtoB商材に近いものがあり、だからこそコンシェルジュの存在に価値が生まれてくる。

また、商流という点では製造~顧客の手元に渡るまでの流れを考えればよい。例えば、飲料では小売店に卸す、自動販売機で提供するなどというような方法がある。小売店では製造会社の意図通りに棚を作ってもらえるとは必ずしもいえないなか、いかに目立つ場所に取り上げてもらうよう小売店に働きかけたり、競合がひしめく売り場のなかで目立たせるかというのが課題になる。

⑥購買意欲/購買能力の担保

ここまでの内容を踏まえた上で、顧客が購買の意思決定をするには、購買意欲と購買能力の両側面を満たすことが必要になる。購買意欲としては、解決策にインパクトが十分であること、競合他社と比較したときに相対的優位性を持っていること、そのプロダクト/事業者に対するイメージなどがある。これを適切なチャネルで適切な表現で的確に伝達することが求められる。購買能力としては、顧客が購買可能な場を提供していることと、販売価格が顧客にとって妥当性を持っていることなどがある。そのために、小売/自動販売機/EC/販売代理/直販/フランチャイズなど購買の場の拡大と、価格戦略が必要になる。

ちなみに、競合他社に対する相対的優位性は、必ずしもそのプロダクトの有効性が優れているか否かではない。プロダクト/事業者のブランドが強いと比較なしで指名購買されることはあるし、単体ではそうでなくとも一連のパッケージとして利便性が高いからや、いつもよくお世話になっているあそこのプロダクトなのでということもある。

⑦実現する組織構造、部門間連携、基本概念や専門知のマネジメント

そして最後に、これまでの内容を担保するような運用面の設計がある。何が最適なあり方かというのは市場や商材特性によって変わってくるが、顧客体験を正しく捉え、それを商品企画~販売~提供までつなげていくために、組織内での権限配分や情報流通の最適化、共通認識の浸透を行い、全体最適の取り組みを進めていく必要がある。

最後に

マーケティングの重要課題は時代によって大きく変わってきた。供給<需要の時代は認知の最大化が重要課題であり、需要<供給の時代は認知の統制が重要課題であった。そして、行動データが膨大に幅広くとれるようになった今は、顧客の購買プロセスに合わせた全体最適化が取り組むべき課題になっている。これは、当然解決するのが難しいものである。しかし、かつてはデータ取得が限定的であったため、多くの人には検討すらも難しかったことでもある。 今こそ、いかに顧客の役に立つかという事業の原点に立ち返って、取り組みを劇的に変えられうるのではないか。それは、大変なことではあるが、取り組みがいのある面白いこととも思える。